粉飾決算対策

金融機関で不良債権の回収責任者の職にあった頃、回収先の粉飾決算を多く見てきました。正確にカウントしたわけではありませんが、不良債権となった回収対象先の8割以上は何らかの粉飾を行っていたように記憶しています。回収対象先に分類された債務者ですから、一般企業に比べて粉飾決算を行っている比率は高いといえるでしょう。

事業再生業務を行っていると多くの粉飾事例に遭遇しますが、過去の粉飾決算の証として貸借対照表上に実態のない資産が計上されているような例が多く見られます。さらには、利益を出すために損益計算書上の粉飾を行っている例も少なくありません。

これらを放置していたのでは債務者主導の事業再生を実現することはできません。


当社では粉飾決算に関与している企業の事業再生は行っておりません。 現在あるいは過去において粉飾決算をした企業については、粉飾決算の事実を公表し、債権者の信頼を獲得することを条件に事業再生の支援をしています。


企業の粉飾決算

損益計算書の経常損益などを意図的に操作して企業の経営成績を隠蔽し実態より良く見せることが典型的な粉飾決算です。貸借対照表の資産を過大計上したり、負債を簿外計上するなどして、企業の財政状態を実態より良く見せる場合もあります。反対に、脱税等の目的で、会社の決算を実態より悪いかのように偽装して決算書を作成することは「逆粉飾決算」と呼ばれ、これも粉飾決算に含まれます。


1. 粉飾の目的

粉飾を行う目的は次のように大別されます。


(1)対銀行関係
利益の過大計上により信用を高く見せる。


(2)対従業員関係
利益の過少計上により分配(=給与)を抑える。


(3)対株主関係
利益の過少あるいは過大計上により高配当を回避する。


(4)対税務関係
利益の過少計上により納税を回避する。


2. 粉飾の方法
古典的かつ典型的な粉飾の方法の例は次の通りです。


(1)収益、資産の過大計上の例
・売上高を架空計上し売掛金を過大計上する。
・売上高を繰上計上し売掛金を計上する。
・資産の評価を引上げ評価益を計上する。
・棚卸資産、有価証券を水増し計上する。


(2)収益の過大計上、負債の過少計上の例
・借受金とすべきものを売上に計上する
・前受金を繰り上げ売上に計上する。
・引当金を取り崩し収益を過大計上する。
・仮受金、預り金を売上に計上する。
・借入金を売上に計上し簿外債務とする。


(3)費用の過少計上、資産の過大計上の例
・固定資産の減価償却費を減らし固定資産を過大に表示する。
・期末棚卸資産を過大に評価計上し結果的に売上原価を減らす。
・修繕費として計上すべきものを建設仮勘定や固定資産に計上する。
・利息や支払保険料等を前払い費用として繰り延べる。
・貸倒が発生しているにもかかわらず貸倒損を計上せず売上債権が過大計上となる。
・不良在庫があるにもかかわらず廃棄損を計上せず棚卸資産が過大計上となる。
・仮払金、立替金を不正計上する。


(4)費用、負債の過少計上の例

・費用を見積もって計上せず修繕引当金や負債を過少計上する。
・確定未払費用を不計上とする。
・買掛金による仕入を過少計上する。
・費用計上基準を発生主義から現金主義に変更する。
・借入金を過少計上する。


粉飾の兆候とチェックポイントの例

粉飾を行う場合、それを示唆する兆候が表れます。

一例として、次表のような兆候と、そのチェック方法が考えられます。詳しくは省略しますが、金融機関は細かくチェックしているため、多くの場合、粉飾決算は見破られているのです。


微 候 チェック方法
損益状況 i)売上が減少している。売上高が3期以上横這いである ・P/L、B/S同業他社比較
ii)利益率が低下している
iii)金利負担比率が極めて高い ・売上高利子負担比率
iv)損益分岐点が著しく高い ・P/L、B/S同業他社比較
v)次のような粉飾決算の兆候がみられる
・販売実績の増減がはなはだしく総利益率の変動が激しい
・電力料、水道料などが殆ど変化していないのに生産が異常に高くなっている
・販売員が減少しているのに売上高が増加している。
・P/L、B/S同業他社比較
財務状況 i)売掛金の回収が悪化している。受手のサイトが長期化している ・売上債権回転率
・代金回収率
ii)棚卸資産が異常に増えている ・棚卸資産回転率
iii)高利の借入(闇金融)が増大している ・P/L、B/S
iv)経営収支比率が低下している ・P/L、B/S
v)次のような粉飾決算の兆候が見られる
・売上債権、棚卸資産、固定資産に異常な増減が見受けられる
・買掛債務、借入金に異常な増減がある
・事業の性格上、当然考えられない前受金、仮受金が多額にある
・P/L、B/S
vi)遊休資産、不稼働資産が多い ・設備効率、B/S
vii)投機的投資が多い ・B/S


粉飾決算を公表する方法

粉飾決算を公表しなければならない場合は二つに大別されます。

一つは経営が行き詰まった挙句、金融機関の協力を得るために粉飾決算の事実を公表する場合です。たとえばリスケや債権放棄を求める例があり、これは会社を継続する場合といえます。

もう一つは別会社での事業再生を成功させた後、残った会社を清算する場合です。たとえば多額の債務超過を抱えた旧会社を処理する例があり、これは会社を清算する場合といえます。


1. 会社を継続する場合

P/Lの粉飾とは現在の粉飾であり、直ちに中止する必要があります。粉飾を継続しているようでは金融機関の信頼は得られません。一方、B/Sの粉飾はできる限り中止するべきです。「できる限り」とは、後述するように「できない場合」も生じるからです。
緻密に計画された複雑な粉飾であればともかく、中小・零細企業の粉飾決算は金融機関に気づかれている場合が大半です。粉飾の事実を開示することで「よくぞ話してくれた」と信頼を取り戻す可能性すらあるのです(i)。


(1)P/Lの粉飾
融資を引き出すための粉飾は詐害行為になりかねない行為であるといえます。架空売り上げは架空の売掛金に直結し、実態のない資産が増えることになります。単にP/Lの粉飾に留まらずB/Sの粉飾へと発展することになります。このように、P/Lの粉飾は現在の粉飾であり悪質であるといえます。


(2)B/Sの粉飾
過去の粉飾の証としてB/Sに計上されている資産を一挙に修正すると債務超過になりかねません。たとえば建設業等、許認可にあたり一定の純資産が要件になっている場合には、債務超過になると事業継続が困難になってしまいます。一般に、売上を粉飾したのであれば剰余金が残っており、これを取り崩すことで債務超過にならないはずですが、それでも債務超過になるならば、いずれかの資産を残すことも検討しなければならないこともあり得ます。この場合、売掛金などの実在資産より擬制資産の方が残しやすいということができます。いずれはゼロになる擬制資産の償却時期をずらすだけであるということもできるからです。



2. 会社を清算する場合
会社を解散・清算したときの課税方法は財産法と損益法があります。
2010年の税制改正前は財産法が採用されていたため、残余財産がプラスにならなければ清算会社における課税はなされず、たとえば、事業再生が必要になるような会社の場合、多くは債務超過の状態であり剰余金がない以上、課税はされませんでした (ii)。


しかし損益法のもとでは、会社を解散・清算したときに債権放棄を受けると、債務免除益が益金となり課税対象になります。このため、実質債務超過である場合には、青色欠損金の控除で足りない場合に、「残余財産がないことが見込まれる」ことを要件として、青色欠損金に加えて期限切れ欠損金(青色欠損金より前に生じた欠損金)を債務免除益と相殺することで課税所得を発生させないようにする必要があります(iii)。過去の繰越欠損を計算に含めることができるという是正措置が取られているものの、多額の債務免除益を消すことができない場合も想定されます。たとえば不良債権化した会社が務超過を表面化させないための粉飾決算を行っている場合です(iv)。
見せかけの利益があると欠損金が表面化しないため、粉飾決算に基づく過大申告について更生後の確定申告を行い、欠損金を表面化させた後で期限切れ欠損金の損金算入の規定を受けることになります。更生の可能性が保障されないために清算手続が放置される例も少なくありません(v)。


実在性のない資産が計上されている場合、損金算入ができなくなります。恣意的な処分を認めないためにも当事者から独立した第三者等による調査によって実在性がないことが確認されることが求められます。
第三者が関与する形で進められる手続は費用と時間がかかるため、解散手続を開始するとともに休眠の届け出を行い、活動を停止したまま放置するような方法も利用されています。この場合、最後の登記を行ったときから12年を経過した時点で職権による解散手続がなされることになります(vi)。詳しくは拙著「事業再生に伴い、残った借入金と会社の処理の仕方」(ファーストプレス刊)で詳述しています。

  1. 粉飾決算を開示した結果、金融機関の信頼を確保した例については拙著「改訂版 新・債務免除読本」の253ページで紹介しています。
  2. 2010年9月30日以前の解散については改正前の財産法が適用され、2010年10月1日以後の解散から改正後の損益法となりました。
  3. 「平成23年度税制改正大綱」により欠損金の繰越控除制度について改正されています。欠損金の繰越期間を7年から9年に延長されました。更正の請求期間も1年から9年に延長されています。
  4. たとえば売掛金などの架空資産の計上により、架空利益を捻出することが考えられます。
  5. 更正の対象期間内に生じたものについては税務当局による更正手続を通じて遡って損金処理できますが、対象期間以前あるいは時期が不明の場合には税務上の剰余金(欠損金)の期首繰越金額を直接修正することになります。繰越額を直接修正できるのは損失処理の手続に客観性が担保されている場合に限られ、納税者側が立証しなければなりません。
  6. 最後の登記があった日から12年を経過した株式会社について休眠会社と定義し(会社法472条)、法務大臣が2か月内に法務省令で定めるところにより本店の所在地を管轄する登記所にまだ事業を廃止していない旨の届出(会社法施行規則139条)をするように官報に公告します。休眠会社が、その届出をしないときは、その2か月の期間の満了時に解散したものとみなされ、その場合、登記官の職権によって解散の登記がなされます(商登72条)。
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