経済学博士論文

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平成23年に東洋大学から経済学(博士)の学位を授与されました。学位授与の対象となった研究は、事業再生に関する債権者と債務者の対立と協調を論じたものです。


経済学博士論文

ここで経済学の博士論文の要旨(抜粋)を紹介します。国立国会図書館、東洋大学図書館で現物を閲覧できます。ファーストプレス社から「不良債権を巡る債権者と債務者の対立と協調」として出版していますので購入可能です。


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博士(経済学)学位論文

A4版、217頁

非売品

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不良債権をめぐる

債権者と債務者の

対立と協調

A5版、275頁

ファーストプレス刊


博士(経済学)学位論文の要旨【抜粋】

 

不良債権をめぐる債権者と債務者の対立と協調

-不確実性下における事業再生のあり方-


1.問題提起

不良債権となった事業再生をミクロ経済学の視点から考えるとき、二つの点を指摘することができる。

ひとつは、債務者が有する正確な情報を債権者が有していないために、債務者からの回収額について債権者と債務者の間で評価が異なるという「情報の非対称性」である。事業再生において情報の非対称性は、債権者が債務者に対して要求する回収額が、受忍限度を超えてしまうことであり、これは事業再生に向けての交渉が決裂するというリスクを生む。

もうひとつは、自己の利得を最大にするように行動するという「期待効用仮説」に従って債権者が行動するとき、各債権者の効用関数が異なるために、債権者ごとに不良債権の元本回収リスクに対する態度が異なるという点である。元本回収額が一律となるような事業再生計画に、全債権者の合意を求めることは困難であり、債権者と債権者の間の合意をどのようにして得るかという課題を解決しなければならない。


2.各章の概要

まず「序章 はじめに」において、研究の背景と動機を示したうえで、先行研究についての整理を行った。

「第1章 不良債権の現状」では、ミクロ経済学の視点から不良債権を論じるという本論文の議論の前提として、不良債権の現状を整理するとともに、金融機関の資産査定の実態と不良債権の処理手続を明らかにした。

「第2章 債権者と債務者の対立」では、債権者と債務者の対立の構造を明らかにした。

「第3章 債権者間の対立」では、債権者間の対立の構造を明らかにした。リスク中立的な債権者を念頭に置き、返済額を一定と仮定したうえで、債権者と債権者の間の配分交渉についてナッシュ交渉解の公理論的アプローチを試みた。

「第4章 債務者に及ぼす影響」では、事業再生をめぐる当事者の経済合理性に基づいた行動が、債務者に及ぼす影響を考察した。債権者と債務者の利得の配分を異時点間で行うことの必要性を指摘した。

「第5章 債権者に及ぼす影響」では、事業再生をめぐる当事者の経済合理性に基づいた行動が、債権者に及ぼす影響を考察した。効用関数に応じて債権者の確実性同値額ならびにリスクプレミアムが異なることを指摘した。

「第6章 現行制度の問題」では、第7章以降で提言を行う前提として、現行制度の概要を概説した。

「第7章 評価方法と評価制度」では、事業再生に関わる評価方法と評価制度のあり方を整理した。

「第8章 問題点と解決策」では、まず、債務者の持つ情報を債権者が持たないために、両者の間で評価が異なるという情報の非対称性がもたらす問題を明らかにした。

「第9章 ケーススタディー」では、事業再生を実践する過程で実績値と計画値の間でギャップが生じた場合に、どのような回収を行うべきであるかについて、あるべき税制度の観点から検証を加えた。

「終章 まとめ」では、本論文のまとめとして結論を明示するとともに、今後に研究を継続すべき課題を整理した。


3.結論

不良債権の早期解消を目指し、不確実性下における事業再生のあり方についての提言を行うことを目的とする本論文は、債権者と債務者の対立、債権者と債権者の対立という二つの現実的な問題を指摘した。


3.1.債権者と債務者の対立による交渉決裂のリスク

債権者と債務者の間の対立は、債権者の返済能力が正しく把握されないために、返済額の合意ができず、事業再生のための交渉が決裂するという問題として具体化する。

債権の回収期間を有期化することにより、債権者と債務者の利益の配分を異時点間で調整し、債務者のインセンティブが確保できる。債務者の努力水準を最大化することで事業価値も維持され、債権者と債務者の双方が満足する利益配分が実現できるので、債権者と債務者の対立による交渉決裂リスクを回避することが期待される。


3.2.債権者と債権者の対立による不良債権解消の先送りリスク

債務者の最大努力が発揮され、事業価値が維持されたとしても、事業再生が成功する場合と失敗する場合では、その事業から期待される回収額に差が生じることとなり、事業再生にはどうしても不確実性が存在する。

全債権者一律の合意形成を図るのではなく、個々の効用関数に応じて回収額の差を認めるべきである。各期の回収額が債務者の最大努力値で一定となるとき、各債権者が満足する回収総額が異なるのであれば、回収総額を決定付けることになる合意期間を全債権者一律に定めることはできない。そのためには回収期間の差別化が有効な対策となるのである。


3.3.不良債権の早期解消に向けて

不確実性下における事業再生のあり方として、事業価値評価制度を確立するだけでは不十分である。回収期間の「有期化」により債権者と債務者の協調関係を構築し、回収期間の「差別化」により債権者と債権者の協調関係を構築することが期待される。回収期間の有期化と差別化により、不良債権をめぐる債権者と債務者の対立を協調へと導くことで、私的整理による事業再生の成立の可能性が高まる。

本論文で提唱する、回収期間の有期化と差別化を実践することにより、債権譲渡を経由して新債権者との再交渉を行うのではなく、原債権者から直接に債務免除を受けることで不良債権の早期解消を促進することができる。


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