2021年
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2021年12月24日(金) 敵対しないことが必要 |
2021年12月24日(金) 敵対しないことが必要
事業再生に不慣れなケースで見られるのですが、債権者と債務者を対立構造として考えることがあります。
詐害的な事業再編等は、その典型例です。事前の根回しなしにバンクミーティングを開催して金融機関を呼びつけたり、競売を誘発して事後交渉を持ちかけたり、乱暴な進め方は見ていて心配になるくらいです。何の根回しもせずに、「特定調停でも持ちかけてみるか」などという弁護士がいるのには呆れる限りです。
債権者と債務者の関係を、必要以上に敵対的構造としてとらえるのではなく、プラスサムの思考が求められるということを忘れてはなりません。
2021年12月17日(金) ゼロサムではなくプラスサム
合理性の判断だけを重視するという立場からは、債権者と債務者の関係を敵対構造ととらえるのではなく、両者が協力することで分配対象を大きくするという発想が求められます。そのためには情報の非対称性を解消することが必要です。
国家資格を有する我々職業会計人の役割は、無責任な思いつきの将来計画を作成するのではなく、過去の正しい財務諸表を基に、確実な将来計画を描くことです。地道に、着実に、偽りのない会計情報に基づいた事業再生を進めることが、職業会計人に求められているのです。
一つのパイを奪い合うのではなく、協力し合いながら分配対象を大きくするという考え方がプラスサムの考え方です。相対するのではなく、一致する利益に着目することのメリットを求めるわけです。
たとえば、一つのパイの取り分を奪い合うのでは利害関係が対立してしまい、一方の益は他方の損になってしまいます。奪い合い行動は当事者にとって利益にはなりません。ところが、当事者が協力しあうことで分配対象であるパイ自体を大きくし、結局は当事者全員の分配を大きくすることができます。分配対象物の極大化行動は当事者の双方にとって利益になるというわけです。
2021年12月09日(木) 着実な取り組みの必要性
事業再生といっても「比較的簡単に再生できる例」と、「一筋縄ではいかない例」があります。会計事務所としては、本来業務を中心に着実な姿勢で取り組むことが求められます。
支援機関として認定された士業は、中小企業診断士でもなく、会計士でもなく、税理士が主たる対象になっている理由もまさにここにあると思います。すなわち、粉飾決算を排除し、正しい決算書を基に再生計画を作成し、モニタリング機能を発揮することが求められるのであり、奇想天外な新プランで業績の飛躍的向上を狙うようなことが求められているのではありません。
そもそも「事業計画」と「再生計画」は違います。事業計画の場合はリスクの許容範囲が広く、失敗する可能性があっても、あえてリスクをとることで成功によるリターンを期待できるのに対し、再生計画はリスクの許容範囲が狭くなります。既に不良債権なのですから、これ以上の失敗は許されませんし、債権者にしても確実性の乏しい曖昧な再生計画よりも、たとえ収益性に劣っても安定性が高く確実な再生計画を求めるのです。すなわち、事業計画に比べて再生計画は実現可能性が高いことが求められるのです。
2021年12月02日(木) B/SよりP/Lが重要
将来においてどの程度の収益、費用、利益が見込めるかということはP/Lの世界の話に他なりません。
従来の金融検査マニュアルに基づいた資産査定は債務者の過去と現在の業況に着目したという意味でB/Sの世界の話です。一度不良債権に区分されてしまうと、健全な発展が期待しにくくなってしまうという問題を回避するためには、将来性に着目したP/Lの視点が求められるというべきです。
不良債権は確実性を重視した事業再生計画が求められ、正常債権は可能性も加味した事業計画が求められていたというアンバランスな状況は見直されて然るべきです。
この点、会計事務所は月次業務を通して、債務者の経営成績を把握する立場にあります。
したがって、P/Lを重視する計画の作成は会計事務所で行うことが十分に可能です。作成した計画を、会計事務所がモニタリング機能を発揮して見守っていくことになります。金融機関における新しい資産査定に伴い、会計事務所の役割がより一層高まるといえるでしょう。
2021年11月26日(金) リアルオプション
不確実性の高い経営環境下での価値判断方法としてリアル・オプション(Real Option)という考え方があります。リアル・オプションは、金融工学のオプション理論を事業評価に応用した考え方で、将来になって経営環境が確定したときに、柔軟な意思決定が可能になるという特徴を有しています。
単的に表せば、とりあえず少し手掛けてみて成功したら更に推進し、失敗したら撤退するというものです。現時点で将来の経営環境を仮定し価値判断を行うのではなく、段階的な経営戦略をとるというのが基本的な考え方です。当初は控えめな経営戦略をとることで、仮に経営環境が悪化した場合には撤退が容易となりますし、反対に、経営環境が良好であれば追加的な経営戦略をとることで事業の拡大を見込むことができます。
このようなリアル・オプションの考え方は、不確実性下において事業戦略を展開するための意思決定ツールとしては有効です。反面、段階的な経営戦略をとるという考え方は、将来時点における経営環境が良化した場合と、悪化した場合に分けてとらえるため、現在価値も複数となり、上限額と下限額というような範囲評価になってしまうという問題点を有しています。端的には「やってみなければわからない」というわけです。これでは実現可能性に疑問が生じてしまいます。換言すれば実現可能性を重視する限りリアル・オプションの考え方を適用するのは困難ということになります。
2021年11月22日(月) 事業計画のあり方
事業計画を作成するにあたっては、どのような形で事業を進めるのか、そしてその事業はどのような戦略を採用するのか等を勘案することが求められます。
その計画はできるだけ正確であり、実現可能性が高いことが求められますが、経営環境が不確実な状況において正確な計画の作成には限界が生じるのも事実です。
たとえば、経営環境を保守的に見込めば評価が下回ってしまいますし、反対に楽観的に見込めば過度の評価になってしまいます。いわゆるDCF法を採用する場合において、将来計画をどのように見込むかによって事業計画は大きく変わることになります。
2021年11月15日(月) 事業計画における実現可能性
経営を進めるにはリスクがつきものですが、正常債権の場合はリスクの許容範囲が広いといえます。許容範囲が広いので、失敗する可能性があっても、あえてリスクをとることで成功によるリターンを期待できるのです。端的にいえば、正常債権の場合は多少のリスクを冒してでも利益の上ブレを求めることが許されますが、不良債権の場合はリスクを取ることで計画の実現可能性が低くなるのは好ましくないということになってしまいます。
不良債権はリスクの許容範囲が狭くなります。既に不良債権なのですから、これ以上の失敗は許されませんし、債権者にしても確実性の乏しい曖昧な事業再生計画よりも、たとえ収益性に劣っても安定性が高く確実な事業再生計画を求めるのです。
従来の考え方では、正常債権の計画と、不良債権の計画は実現可能性の扱い方において根本的に異なります。この違いを見失ったまま、金融機関に事業再生の相談をするという例が後を絶ちません。金融機関に事業再生の協力を求めるならば事業の可能性に目を瞑ってでも、高い実現可能性を前面に出す必要があったのです。
このように、同じビジネスであっても、正常債権に区分されている債務者には許されても、不良債権に区分された債務者には許されないということになってしまいます。これでは一度、不良債権に区分されたら最後、健全な発展が期待できないことになってしまうのです。
2021年11月06日(土) 資産査定
事業再生を論じる場合、金融機関の資産査定の問題を避けて通ることはできません。金融機関が行う資産査定において、正常債権なのか不良債権なのかが判断されるからです。
1990年代の後半、金融の自由化、国際化という大きな流れの中で金融機関を取り巻く経営環境が激変し、一部の金融機関に経営危機が生じたことは周知の事実です。
1998年には金融機関に対する早期是正措置制度が始まり、金融機関は自己査定による不健全資産の償却、貸倒引当金の計上を実施することになりました。
金融機関経営の健全性の確保を促すため、客観的なルールに基づき経営上の諸問題の早期是正を促すことを狙いとし、1999年には金融検査官向けのガイドラインという形で金融検査マニュアルが公表されました。
現在では金融検査マニュアルは廃止されていますが、当時の考え方が一部に残っていますので、ごく簡単に整理します。
①債務者を区分する 資産査定にあたっては、まず債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済能力を判定します。債務者の過去と現在に着目し、個々の債務者をランク付けして「区分」する作業を行うことになります。
②債権を分類する 次に個々の債権を回収の危険性または価値の毀損の危険性の度合に応じて資産を「分類」します。 資産査定によって分類された債権は各分類に応じて貸倒引当金を計上します。
資産査定にあたっては、まず債務者を区分することから始まります。
その区分はこれまでの債務者の実績により、過去の返済実績や、現在の経営成績・財政状態を重視して判断されています。
過去と現在の業況が悪ければ、一律に不良債権と判断されてしまっていたのです。
過去と現在に着目しているという点で、B/Sの視点からとらえていたのであり、換言すれば、将来の可能性が十分に評価されないまま資産査定が行われていた点に問題があったのです。
2021年10月29日(金) 交渉学という学問
平成26年4月より株式会社ミロク情報サービスの客員研究員を拝命しています。
毎月一回の研究会に参加するだけではなく、毎月一回の経営研究レポートを発表しており、ミロク情報サービスのホームページで紹介されています。
第75回の経営研究レポートが公開されました。
今回のテーマは「交渉学という学問」で、その要旨は次の通りです。
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要旨:
交渉学という学問領域があります。いまだ新しい学問領域であり、試行錯誤を繰り返しながら発展途上にある学問であるということができます。従来は実務面から事業再生を取り上げてきましたが、今回は交渉学を中心とし、理論面から事業再生について議論を展開します。
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記事を読むにはミロク情報サービスの会員になる必要があります。
会員は(1)会計事務所向けと(2)企業経営者向けに分かれています。
(1)会計事務所の先生の場合は「tvs会員」になる必要があります。
下のアドレスから著者名を指定して検索できます。
http://tvs.mjs.co.jp/working/management/research-rep/not_cached.html
(2)企業の経営者の場合は「GOODWILL PLUS会員」になる必要があります。
下のアドレスから著者名を指定して検索できます。
http://goodwill.mjs.co.jp/working/management/research-rep/not_cached.html
多くの有益な情報を入手できますので、入会することをお勧めします。
私自身、他の研究員の研究レポートを拝読し、参考にさせていただいております。
入会にあたってはお近くの(株)ミロク情報サービスの営業拠点にご連絡ください。営業拠点は下のアドレスから検索できます。
http://www.mjs.co.jp/office/tabid/479/index.php#no2
2021年10月21日(木) 結局は経営者次第である
偶然、情報を得て当社を訪問した経営者が再生できる一方で、不幸にもそのような機会に恵まれなかった経営者は再生できない・・・。こんな不公平はいささか疑問でもあります。しかし、それも一つの「運」かもしれません。ビジネスの世界では時として運が大きく左右することがあるのです。
「運」に恵まれ、ノウハウを手にしたのなら躊躇せずに事業再生を目指すべきだと思います。ただし、迷いがあるならば強行すべきではありません。強行したところで挫折する危険があるからです。
「再生させたいという強い意思」「真面目な態度」「積極的な姿勢」が揃ってこそ、成功が待っているのだと思います。
事業再生にあたっては、他人に寄りかかるという「他力本願」ではなく、自らを頼りとする「自力本願」による事業再生が必要です。それを可能にするのは、経営者自身の財産である「知識や知恵」、「情熱や勇気」にほかならないのです。
2021年10月12日(火) 事業再生は千差万別である
これまで四半世紀にわたり事業再生を専門に扱ってきました。不動産鑑定士、税理士として、その特権を最大限に活用し、債務者の立場に立って努力してきました。巷にあふれるコンサルタントのように、「当社は専門家と提携して・・・」ではありません。自分自身が有資格者であり、専門家なのです。
独立前は損害保険会社の本社回収部門の回収責任者を務めていました。したがって、債権者の行動は手に取るように分かります。全国の不良債権のみを対象にした回収を専門に行っていました。支店の貸付担当者が行う回収レベルではなく、こじれにこじれた困難な案件ばかりでしたので、大概のケースを経験済です。
単なる実務家としてではなく、経済学者、経営学者としての理論的研究も継続してきました。理論と実務の融合を目指し、不動産鑑定士としての不動産鑑定にしても、税理士としての営業権評価にしても最新の方法を導入してきました。
私の亡き父は事業に失敗して自己破産しています。自己破産者の子供として、借金して大学を卒業しました。だからこそ、債権者としての回収ノウハウだけではなく、債務者の気持ちも分かるつもりでいます。
事業再生は生々しい世界です。奇麗ごとや、精神論だけでは通用しないのです。
方向性は見えても、その過程では、臨機応変な対応が求められるのです。無資格者には荷が重いはずです。回収経験がなければ荷が重いはずです。破綻した債務者の心を知らなければ債務者の立場に立った事業再生は荷が重いはずです。
「専門的な資格がない、回収経験がない、理論的背景がない、債務者の事情を知らない・・・」何も無いのに事業再生ができるはずがありません。中には「自らの再生実績」を看板に掲げて事業再生を行っている輩もいますが、まったく話になりません。なぜならば事業再生は千差万別であり、一例をもって他の例に当てはめることはできないからです。
2021年10月07日(木) 私的整理による事業再生
当然のことながら、事業再生が完了するまでに必要となる時間は個々のケースによって異なります。順調かつ簡単なケースでは数か月で終わる場合もありますし、紆余曲折を経て数年かかるケースもあります。中には、一度中断した後、復活して決着する例もあります。
債権者という「相手」があることですから債務者側では決められません。民事再生のようにスケジュール化できるわけではなく、再生の事実を公表することなく債権者との交渉で進めるため、時間がかかる場合があることも覚悟した上で事業再生に取り組まなければなりません。
急いで進めたい、スケジュール化したいなどの場合は、風評被害を覚悟したうえで法的整理を選択すべきです。
途中で挫折するくらいならば、最初から取り組むべきではありません。取り組んだならば、最後まで頑張ることで私的整理による事業再生が実現するのです。私的整理というのは、それだけ繊細なのです。
法的整理に着手してから私的整理に移行することはできません。法的整理は最後の手段なのです。まずは私的整理を行って事業再生を目指すべきです。どうしても合意に至らない場合に、最後の手段として法的整理を選ぶべきなのです。
2021年09月30日(木) 積極的な姿勢に欠ける例
多くの場合、筆者の元に相談を寄せる経営者は積極的な経営者です。勉強家でもあります。
アンダーラインを引き、付箋紙を貼り、ポイントを押さえた質問をしてくる経営者が多いのです。それだけ、皆、積極的だとわかります。
本を読み、実際に相談してくるのだから、それだけで積極的なのはわかります。本を一読することで一通りの知識を得ており、効率的に事業再生が進められる場合が大半です。
しかし、中には、なんとなく相談してくる経営者もいます。
話を聞くと、ただ漠然と「困った」「どうしよう」という悩みを抱えているだけのことがあるのです。まさに「積極的な姿勢」に欠けているのです。このような場合は、大概「再生させたいという強い意思」にも欠けていることが多いといえます。
私の知る限り、こういう経営者は必ず途中で挫折します。事業再生を始めても、債権者との交渉の途中で力尽き第三者への譲渡に合意してしまうのです。
こういう経営者には「迷いがあるなら事業再生は困難だ」ということを知らせてあげることも大切だと思っています。
2021年09月23日(木) 真面目な態度に欠ける例
粉飾決算をいつまでも続けたり、逆粉飾決算で利益を誤魔化したりするような経営者が、債権者の信頼を得られるわけがありません。
真面目な態度に欠けるとは、誤魔化そうとする債務者のことだけではありません。
返済が苦しいまま、ろくに努力もせずに、さっさと別会社を作って事業を譲渡するような債務者も真面目な態度に欠けるというべきでしょう。このような経営者が、債権者の協力を得られるはずがありません。まずは経営努力を行うべきです。経営努力により返済能力を高めた上で、返済能力を超える部分について債権者の協力を求めるべきなのです。
これまでに、債権者の逆鱗に触れた債務者の例を何例も見てきました。
だからこそ、筆者は無理な事業譲渡計画には反対なのです。無理に事業譲渡をしても、債権者からの攻撃を受けてしまったのでは何にもならないからです。無理な事業譲渡に対して債権者が反撃を行う場合、反撃の程度は凄まじいものになります。いわば本気の戦いとなります。債務者は防戦一方となり、多くの場合、敗戦となってしまいます。
債務者は債権者の協力を得つつ、真面目に、正直に、正面から取り組む姿勢が絶対に必要なのです。
2021年09月18日(土) 再生させたいという強い意思に欠ける例
再生させたいという意思は、それなりに全ての経営者が持っています。
「もう、やめたい」というのであれば、論外です。さっさと、事業をたたんでしまえばいいだけの話です。廃業も立派な選択肢です。
経営者が迷っているようでは、事業再生は途中で挫折していまします。なぜならば、債権者は別の経営者に経営を譲渡させることで回収の極大化を図るからです。回収の極大化が実現できるのであれば、経営者が誰であろうと債権者には関係ないのです。
必要になるのは「なんとしても再生させたいという『強い』意思」なのです。
強い意思があれば、その経営者に経営を任せたほうが返済能力も多くを期待できるでしょうが、経営者が迷っているようでは、他の経営者に経営を任せたほうが得策だともいえるでしょう。
したがって、事業を再生させたいという「強い」意思がないならば、事業再生はあきらめた方が良いでしょう。M&Aで経営権を譲渡するか、会社を清算するほうが無難かもしれません。
2021年09月11日(日) 事業再生に成功する経営者
事業再生に成功する経営者には少なくとも3つの共通点があると思います。それは、「再生させたいという強い意思」「真面目な態度」「積極的な姿勢」の3つです。裏を返せば、これらの点に欠ける経営者は、事業再生を成功させるのは困難といえるかもしれません。
「再生させたいという強い意思」とは、「できれば再生したい」とか、「どうにかならないか」といった曖昧な意思ではなく、「どうにかして再生させたい」という堅固な意思です。迷いのない強い意思と言うこともできるでしょう。
「真面目な態度」とは、返済能力の中で返済するという誠意であり、正直な態度です。誤魔化さず、正面から取り組む意気込みでもあります。
「積極的な姿勢」とは、さまざまな知識を集め、再生に向けて邁進する気概です。広く勉強家であることが求められます。
2021年09月04日(土) 取締役会の失敗を回避する
問題役員を放置していたのでは会社の健全な発展はありません。良識役員が中心となり、取締役会を正しい方向に導くことで、取締役会の失敗から経営破綻に陥ることを回避しなければなりません。
良識役員が無気力に陥り経営破綻に向かうよりは、良識役員と問題役員が対立することで正常化に至るほうが良いという一面もありますが、良識役員と問題役員の対立を煽るのは得策ではありません。できれば穏便に解決したいものです。取締役会や株主総会決議の欠缺(会社法831条他)の問題等、裁判沙汰に発展しかねないからです。
とりわけ「保守的に過ぎる」、「自己主張が過ぎる」、「感情論に走る」といった問題役員に共通しているのは「主観で動く」という点です。この「主観で動く」という特徴に鑑み、問題役員に引退の花道を与えることも有効な対策となります。自尊心という主観に訴えるというわけです。
しかし、残念ながら問題役員は役員としての経験年数が長く、必然的に高齢化していることが多くみられます。良識役員の努力によって、問題役員が自己の問題行動を自覚し改善してくれれば良いのですが、高齢化による硬直的な思考方法等により改善が難しいことも少なくありません。このような問題役員については、たとえ本稿でまとめたような問題の指摘や解決策の提示をしても、それが自分に向けられていると気が付かないことさえあります。自分が問題役員であることが理解できていないのです。
このような場合には、中立的な立場の勢力を確保することが一層効果的になります。たとえば社外取締役の任命や外部専門家の活用により中立的な経営補助者を強化し、良識役員の勢力を補強することも有効な手段になるのです。中立的な勢力の力によって、問題役員の頭を冷やし冷静にさせるというわけです。
2021年08月27日(金) 学問のすすめ
平成26年4月より株式会社ミロク情報サービスの客員研究員を拝命しています。
毎月一回の研究会に参加するだけではなく、毎月一回の経営研究レポートを発表しており、ミロク情報サービスのホームページで紹介されています。
第74回の経営研究レポートが公開されました。
今回のテーマは「学問のすすめ」で、その要旨は次の通りです。
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要旨:
筆者は不動産鑑定士であり税理士です。会計人の皆様と同じく職業的専門家です。子供の頃からの目標であった博士の学位を得たのは、国家資格を得た後、それまで勤めていた金融機関を退職して独立し、仕事が安定するようになってからです。単に実務だけではなく、学問に裏付けられた理論も重視することが大切だと考えたからに他なりません。本稿では学問の重要性を明らかにした上で、学位の取得のために参考となる情報を開示します。実務と理論の融合を図ることで会計人としての業務の質を、より一層高めることができるのではないかと考えています。今回は「学問のすすめ」を見直すこととし、次回以降で交渉学、経済学の視点から事業再生を考えます。
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記事を読むにはミロク情報サービスの会員になる必要があります。
会員は(1)会計事務所向けと(2)企業経営者向けに分かれています。
(1)会計事務所の先生の場合は「tvs会員」になる必要があります。
下のアドレスから著者名を指定して検索できます。
http://tvs.mjs.co.jp/working/management/research-rep/not_cached.html
(2)企業の経営者の場合は「GOODWILL PLUS会員」になる必要があります。
下のアドレスから著者名を指定して検索できます。
http://goodwill.mjs.co.jp/working/management/research-rep/not_cached.html
多くの有益な情報を入手できますので、入会することをお勧めします。
私自身、他の研究員の研究レポートを拝読し、参考にさせていただいております。
入会にあたってはお近くの(株)ミロク情報サービスの営業拠点にご連絡ください。営業拠点は下のアドレスから検索できます。
http://www.mjs.co.jp/office/tabid/479/index.php#no2
2021年08月19日(木) 解決策②
(2)良識派が活躍する
対立軸が明らかになった後は、問題役員を抑える形で良識役員が活躍するべき環境を構築することが必要になります。
①良識役員の勢力を強める
たとえば株主の協力を得て取締役会における良識役員を多数派となるように工作することが考えられます。株主総会で問題役員を選出しない、あるいは良識役員を多く選出することで正しい取締役会決議を指向することが期待されます。代表取締役の選出に関しても良識役員から代表取締役を選任することで取締役会を正しく運営することが期待されます。
②問題役員の勢力を弱める
複数で行動する問題役員同士の協力関係を分断することも有効です。問題役員の一部を良識役員に変えることができれば良し、そうでなくとも、問題役員としての問題行動を自覚せしめ、問題役員に追従することなく中立を保つだけでも問題役員の勢力の弱体化に有効となります。 そもそも、問題役員は単独で行動できないからです。
経営姿勢を明示して是非を明確にすることで問題役員の一部でも中立の立場となれば、集団で行動するという問題役員の協力関係を分断して勢力を弱めることができるのです。
2021年08月15日(日) 解決策①
正しい経営判断をし、正常な取締役会を運営するためには良識役員が無気力になってはなりません。良識役員の抑止力を高めることで、問題役員の複数行動を阻止することが求められます。
(1)経営姿勢を明確にする
経営姿勢を明確にすることで良識役員の意思を統一するとともに、問題役員に対して自らの行動が間違っていること、良識役員に対して自らが正しいことを自覚させることは有効な解決策となります。そのために、会社が目指すべき経営理念を確立し、これを実現するために基本となる行動指針たる経営方針を明示し、経営者として行うべき具体策を明らかにすることが求められます。経営姿勢が正しく示されることで、それに対する行動は問題行動として浮き彫りにすることができるからです。
あえて問題役員と良識役員の対立軸を経営姿勢という形で明確にすることで、是を是とし非を非とする経営風土を確立するというわけです。
2021年08月10日(火) 問題役員により正常な運営が阻害される取締役会の特徴②
問題役員が取締役会における主流派になると取締役会での正常な意思決定ができなくなり、経営不振に陥ってしまいます。まして、問題役員が代表取締役になれば経営破綻に向かうことになってしまいます。
このような致命的な事態に至る前に、問題役員の行動に異議を唱え、問題役員の問題行動を抑止しようとする勢力(以下、良識役員と表します)が台頭すれば改善が期待できます。残念ながら、問題役員により正常な運営が阻害される取締役会の場合には、良識役員が問題役員に圧倒され、良識役員による問題役員への抑止力が十分でないという特徴がみられます。
事態を改善するため、良識役員の台頭により問題役員を抑止しようとするならば、問題役員と良識役員の権力闘争になりかねません。望ましい形ではありませんが、放置することで経営破綻を招くよりは、破綻を回避する可能性がある以上、権力闘争は是認されて然るべきです。
良識役員の力により問題役員を抑止すべきであるというところに問題解決のカギが認められるといえるでしょう。
2021年08月03日(火) 問題役員により正常な運営が阻害される取締役会の特徴①
問題役員により正常な取締役会の運営が阻害される取締役会には2つの特徴を指摘することができます。特徴を踏まえたうえで、阻害要因たる問題役員の行動を排除する対策を考えることが求められます。
①問題役員が複数で行動する
多くの場合、問題役員は役員としての経験年数が長いことが多く、取締役内部での影響力が高まっている傾向があります。このような問題役員は、単独ではなく複数で問題行動を起こすという特徴がみられます。
問題役員Aが行動すると問題役員Bも続くというわけです。反対にBが先行し、Aが後行することもあります。AとB(あるいはそれ以上のC,D・・・)はお互いにもたれ合いながら正常な取締役会の運営を阻害するというわけです。
そもそも問題役員は、正論を唱えるわけではなく、「保守的に過ぎ」「自己主張に過ぎ」「感情論に走る」だけですので、本質的な力を持つものでは無く、徒党を組むことで存在感を示さなければ力を誇示できないのです。「問題役員は複数でないと行動できない」というところに問題解決のカギが認められるといえるでしょう。
2021年07月24日(金) 合理的な判断よりも「感情論に走る」役員
取締役は株主からの負託を受けて正しい経営判断をすべきところ、好き嫌いの感情で判断する問題役員が存在します。
他の役員が正論をもって進めようとしているにもかかわらず、「言葉使いが良くない」「態度が悪い」挙句の果てには「あいつは気に入らない」との浅はかな理由、言い換えれば自らの悪しき感情で正論を否定してしまうのです。これでは、思慮に欠ける子供が喧嘩を仕掛けているのと大差ないといえるでしょう。
このような姿勢の問題役員は、合理的な判断よりも愚かな感情を優先するという点で経営能力が欠如している典型例といえるでしょう。
2021年07月20日(月) 事あるごとに異論や反論を唱えて足を引っ張るような、「自己主張が過ぎる」役員
合理的な判断を目指して議論を進める過程で、事あるごとに異論や反論を唱え、議論を停滞させるばかりか、誤った判断に導く問題役員が存在します。このように自己主張が過ぎる問題役員が存在すると取締役会が停滞することになってしまいます。
大きな声で発言し、上から目線の言葉使いで、時として恫喝することすらあります。自らは何もせず文句ばかりを並べる問題役員もみられます。こうなると、他の役員が委縮してしまい建設的な議論ができなくなってしまいます。
このような姿勢の問題役員は、自己主張が過ぎる点で経営能力が欠如している典型例といえるでしょう。
2021年07月11日(日) 新しい取組みを回避するような、「保守的に過ぎる」役員
人間は環境適応能力を持っています。そのため、環境がゆるやかに変化する場合に、たとえそれが改善すべき状況であっても受け入れてしまう傾向がみられます。たとえば環境の悪化が危機的レベルになりつつある場合でも、その変化に気づかずに受け入れてしまうというものです。これを「ゆでガエル現象」と呼びます。
カエルを水に入れ、それを緩やかに温めていくと「カエルは水温の上昇を知覚できずに死んでしまう」という比喩になぞらえたネーミングです。
ぬるま湯の温度をジリジリと上げられ、もはや致命的な温度になりつつあるにもかかわらず脱出を怠るカエルのような現象は、取締役会に臨む役員にも生じることがあります。本来であれば経営環境の変化に対応するために新しい取り組みが求められるところ、新しい取り組みを避けて旧態依然とした後ろ向きな経営を進め、結果として経営危機を招いてしまうのです。
このような姿勢の問題役員は、保守的に過ぎる点で経営能力が欠如している典型例といえるでしょう。
2021年07月05日(月) 取締役会の正常な運営を阻害する役員の問題行動
取締役は株主の信任を得て株主総会で選任され、取締役会の構成員として善管注意義務(民法644条)及び忠実義務を (会社法355条)負います。取締役が複数であれば取締役会を設置し、取締役会においては、各取締役が対等な立場で真摯に議論を交わし、会社経営を正しく導くことで株主から負託された責任を果たすことになります。
しかし筆者の経験に照らして現実をみるに、取締役会の運営がうまくいっていない企業は少なくありません。そのような企業の多くは経営不振に陥っているのが実情です。
取締役会を構成する取締役、監査役 の全てが有能な経営者であるとは限りません。中には正常な取締役会の運営を阻害するような役員もみられます。そのような問題役員は大きく3つの特徴を指摘することができます。
すなわち「保守的に過ぎる」、「自己主張が過ぎる」、「感情論に走る」という特徴です。
2021年06月27日(日) 事業再生に関する出版物
平成26年4月より株式会社ミロク情報サービスの客員研究員を拝命しています。
毎月一回の研究会に参加するだけではなく、毎月一回の経営研究レポートを発表しており、ミロク情報サービスのホームページで紹介されています。
第73回の経営研究レポートが公開されました。
今回のテーマは「事業再生に関する出版物」で、その要旨は次の通りです。
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要旨:
平成13年7月に「経営再建計画書の作り方」を上梓して以来、筆者はこれまで30冊近くの書籍を公表してきました。すでに絶版になっている書籍もありますが、アマゾン等のネット書店で検索すれば中古版で安価で入手することができるようです。経営システム研究所の客員研究員として、これまで7年間、計72回に分けて事業再生に関する情報を発信して参りました。その集大成として、筆者が公開した主要な書籍について、その内容を整理しておきます。読者の皆様が直面している類似事例の参考になれば幸いです。
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記事を読むにはミロク情報サービスの会員になる必要があります。
会員は(1)会計事務所向けと(2)企業経営者向けに分かれています。
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2021年06月21日(月) 計画を変更する段階
できれば毎月、少なくとも年2回の中間報告を行います。
もし異常な動きがある場合は、必要に応じて再生計画の変更を行います。計画には変更がつきものですが、当初の計画値が高すぎた場合には思い切って計画の見直しを行うべきです。
但し、計画進捗率が大きく下回る場合には経営が破綻しているととらえられてしまう可能性があることに注意が必要です。再度の再生は事実上難しいことにもなりかねません。従って、再生計画を作成する段階から堅実な計画値を設定しておくことが大切です。
2021年06月17日(木) 計画の実況状況を点検する段階
計画をスタートさせた後は月次管理を行います。
再生計画が計画通りに進んでいるかどうかを点検し、計画との乖離が生じているのであればその原因を究明します。経営環境の変化に起因するものなのか、あるいは、社内活動の不備に起因するものなのかを見極めなければなりません。そのいずれにも問題がないのであれば、計画自体に無理があった可能性もあります。
月次の点検を通して問題を早めに察知し、対策を講じることが必要なのです。
2021年06月10日(木) 再生計画を新たに公表する段階
再生計画の骨子を固めます。その上で、一定の範囲までは自社で計画を作成します。この間、協力してもらえそうな金融機関の有無、協力の程度を探ります。協力の程度とは、各銀行の姿勢を確認することであり、いったいいくらの回収を行うつもりであるかを聞き出すことです。正面から、「いくら債権放棄してくれるか」を聞くのは難しいでしょうから、民事再生法や会社分割、さらには会社清算の話を引き合いに出し、担保の設定状況を勘案しつつ、担保分以外についてどの程度の回収を考えているのかを聞き出すことが重要です。
再生計画の基本方式が出来あがった段階で、主力銀行に相談します。相談では、再生計画の格たる銀行として協力してもらうことを要請します。ここで、要請が断られるようであれば、他の金融機関が協力してくれるはずがありません。
主力銀行とのやり取りの間、主力銀行の意向を反映させる形で再生計画を修正します。この修正は面倒な作業ですが、いかなる場合でも修正は避けられず、むしろ、銀行を巻き込んだ形での再生計画を作りあげたということで、他の金融債権者の同意を得られやすくなります。数ヶ月、場合によってはそれ以上の間、主力銀行とのやり取りが続くと覚悟しておくべきかもしれません。
次に、主力銀行とのやり取りを経て完成した再生計画を、各金融機関に持ちこんで協力を求めます。このときに、主力銀行の応援が得られれば、話をスムーズに進めることができます。当然の事ながら、各金融機関からは質問や要請が寄せられますので、丁寧に受け止めて再生計画に反映させることが望ましいといえます。
2021年06月03日(木) 再生計画書
法的整理、私的整理の差はあるにせよ、債務者を再生させるという点では民事再生法の再生計画と、私的整理における再生計画は共通しています。債務者自身ではなく、金融債権者を中心とした第三者を納得させるものでなければならないという点でも共通しています。
再生計画書は、時間と労力をかけて作り上げた再生計画を要約したものにすぎません。再生計画を要約して文書で説明しているだけです。
たとえば、計画では1000万円未満の債権と1000万円以上の債権を分け、両者に要請する債権放棄の内容に差を設ける場合、重要なのはその根拠となる計画であり、それを裏付ける資料です。根拠となる資料さえしっかりと作成してあれば、要約文書の表現に多少の稚拙さがあったとしても意は通じます。大切なのは、各種の資料をキチンと作り上げることなのです。すなわち、過去から現在までを正確に分析・表現し、問題点を洗い出した上で、将来の計画につなげるための客観的かつ具体的な計画が求められるわけです。作成に当たっては、完成した再生計画を債権者に唐突に提示するのではなく、要所要所について根回しを繰り返しながら作成していくことが有効です。
事業別や部門別に集約するのも第三者を納得させるために他なりません。細かい努力の積み重ねにより出来上がった資料を基礎として、第三者が納得し得るような再生計画書を完成させるのです。
2021年05月26日(水) 再生計画案
再生計画を作成する作業は大変な時間と労力を必要とし、また、必要な資料も相当の分量になります。しかし、最終的に完成する再生計画案そのものはシンプルな形になります。作業の過程で作成した資料はあくまでも資料であり、計画書とは別の位置付けになります。
実際には対前年比率、対前年差額等を挿入しますので横が広がります。また、対象となる項目が多ければ縦も広がります。表形式にするためにはA4版では小さすぎて見難くなるためにB4版、A3版で作成することになるでしょう。頁数も膨大になりますので、これら全てを再生計画書とするのは問題となります。
部数が多量になる場合には、多くの計画書は添付資料として用意し、実際の計画書は表示を要約した形にすべきです。
2021年05月18日(火) 抵当権ごと債権を譲渡する
後順位抵当権の繰り上げは重大な問題です。先順位抵当権が消滅した結果、後順位抵当権が繰り上がることがあります。先順位抵当権の債権が減少した結果、後順位抵当権の配当額が増加する場合です。これでは無担保債権者に担保を与えてしまうようなものです。いつまでたっても抵当権は消えません。
たとえば、債権者A銀行が1億円の債権を持っており、担保物件の評価額は8千万円とします。その物件に債権者B銀行が5千万円の第二順位抵当権を設定しているとします。この場合、A銀行が8千万円を回収するのは可能ですが、B銀行は無剰余であり、第二順位抵当権はその価値を失ってしまいます。
この時、債務者とA銀行が8千万円を回収できれば残り2千万円は債権放棄することで合意したとします。このときA銀行に8千万円を返済し、担保権を取り除き、債権放棄をするようでは話になりません。B銀行の第二順位抵当権が第一順位抵当権に格上げされ、無剰余ではなくなってしまうからです。B銀行にみすみす担保を与えてしまうことになってしまいます。
こうした後順位抵当権の繰り上げを阻止するために、A銀行には8千万円を返済し、残りは債権放棄ではなく抵当権ごと債権譲渡してもらうのです。これにより第一順位抵当権は消滅することなく、第二順位抵当権は無剰余(無価値)のまま据え置くことができます。時間を稼ぐ一方で、無剰余のままのB銀行と抵当権抹消費用程度の支払いで残債を放棄してもらうというわけです。
2021年05月09日(日) 他の抵当権が守ってくれる
担保権は債務者にとって脅威です。しかし、ある債権者の担保権が別の債権者が仕掛けた法的攻撃から守ってくれることもあるのです。そこで他の担保権を利用することで資産の保全を図ることも可能なのです。
債権者にとって、債務者と同じように、他の債権者もまた脅威となります。他の債権者の取り分が多ければ、自分の取り分が少なくなるのであり、食うか食われるかの関係が債権者の間にも成り立つのです。一部の債権者だけを見ていたのでは、こうした関係はなかなか見えてきません。よって、全ての債権者の関係を把握することが大切なのです。
たとえば親族が所有している不動産に抵当権を設定する形で担保として差し出したとします。その親族は自身の業務に必要な機材を導入する目的で金融機関から借入しており、毎月期日までに確実に返済しているとします。いわゆる正常債権です。
正常債権であれば追加担保が求められるのではありませんが、追加的に担保を差し出すことになるので、債権者にとっては不利益がなく、無条件に担保を受け入れるのが一般的です。このようにすることで、他の債権者からの脅威を防ぐことができるわけです。
2021年05月03日(月) ハンコ代
事実上、配当が期待できない抵当権者に対しては、いくらかの金銭をハンコ代として支払うことで抵当権消滅に応じてもらいます。
ハンコ代の額については基準がありません。一律100万円を要求してきたり、数十万円であったりと、バラバラです。「当社は一律2%をもらうことになっている」との主張を崩さず、数百万円の支払いを余儀なくされた例もあります。
どうしても金額に折り合いがつかないのであれば、抵当権の消滅請求をすることで抵当権を排除できますが、消滅請求は、全債権者に対して一律に行うこととされていますので、後順位抵当権者だけを狙い撃つことはできません。
2021年04月25日(日) 無剰余になるなら競売しない
複数の抵当権が設定されているような場合、後順位抵当権者が競売を申し立てたくても、申し立てることができない場面が生じます。
たとえば評価額が8千万円の不動産に下表のように債権者Aが抵当権を設定しているとします。
残高 有担保
第一順位抵当権者A 1億円 8千万円
第二順位抵当権者B 4千万円 ゼロ
第三順位抵当権者C 1千万円 ゼロ
この場合に、裁判所が定めた買受可能価額が8千万円であれば、BとCは無剰余になります。競売を申し立てたところで職権取消のおそれがあります。このような場合、手間暇と費用をかけて競売を申し立てはしないのが一般的です。
もっとも、8千万円以上での入札があるかもしれませんので、Bはギリギリのところで配当が期待されます。裁判所が選任する不動産鑑定士の鑑定評価次第では、買受可能価額が思いのほか高くなり、裁判所が無剰余と判断しない可能性もあります。このような場合、Bとしては事前にAに対し、「裁判所から無剰余の判断がなされた場合には競売続行の承諾をもらいたい」と話をしておくことで、競売の職権取消を回避することができ、安心して競売を申し立てることができることになります。
一方、後順位抵当権者であるCは事実上、競売を利用することは困難となります。担保が8千万円であるところ、先順位抵当権者が1億4千万円の残高がありますので無剰余となる可能性が高く、無意味な抵当権というべきでしょう。
ただし、競売でなければ、いわゆるハンコ代として、いくらかの抵当権抹消費用を得ることができます。
2021年04月20日(火) 建物が存在する場合における財産評価基本通達による評価(2/2)
平成26年4月より株式会社ミロク情報サービスの客員研究員を拝命しています。
毎月一回の研究会に参加するだけではなく、毎月一回の経営研究レポートを発表しており、ミロク情報サービスのホームページで紹介されています。
第72回の経営研究レポートが公開されました。
今回のテーマは「建物が存在する場合における財産評価基本通達による評価(2/2)」で、その要旨は次の通りです。
ーーー
要旨:
土地所有者の死亡により相続人が過度の税負担になることを救済するために、一定規模までの不動産については相続税を抑える配慮がなされています。これが小規模宅地等の特例です。建物を誰がどのように利用するかによって適用される特例が異なりますので注意が必要です。
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2021年04月12日(月) 無剰余による競売の取消
競売が実施され裁判所が定めた買受可能価額が、債権額と競売手続費用の合計見込額を下回る場合を無剰余といいます。このように競売を実施しても差押債権者に配当される余剰がない場合には、配当が回ってこない債権者からの競売申し立は無益な競売として認めていません(民事執行法63条1項)。このような場合は、競売手続を裁判所が職権で取り消すことになります。
無剰余かどうかの判断は、現況調査報告書および評価書が提出され、優先債権の見込額が確定できる時期以降に行われます。裁判所は剰余を生ずる見込みがないと判断したときは、その旨を差押債権者に通知することになります。
裁判所が無剰余と判断した場合に、競売申立債権者が定められた期間内に何もしなければ、競売手続は職権で取り消されます。
無剰余となった申立債権者が競売手続の続行を望む場合には、無剰余通知を受け取ってから1週間以内に下記のいずれかの措置を講ずる必要があります(民事執行法63条2項)。
ⅰ.手続費用と優先債権の合計額以上の額で自ら買い受ける旨の申し出をしてその申し出に相当する保証を提供する方法
ⅱ.剰余を生じる見込みがあることを証明する方法
ⅲ.優先債権者の同意を得ていることを証明する方法
2021年04月06日(火) 敵と味方の区別もつかないようでは事業再生は困難
事業再生に携わっていると、様々な人々に出会います。独立して20年以上の間、独立前の金融機関の回収責任者時代を合わせると四半世紀もの間に、いろいろな経営者、債権者に出会いました。
長年にわたり事業再生を専門に行っていたため、事業再生に関する相談を受けた場合、最初の段階で再生に向けてのストーリーが見えてしまいます。早い段階でストーリーが見えるので、再生を進めるにあたって方針が大きくブレることがありません。初期の段階の考えや発言が変わることはあまりないのです。そういう意味で、コロコロ話が変わる偽コンサルタントは「わかっていない」ということができるでしょう。
しかし、経営者の姿勢や考え方が変わることは少なくありません。場合によっては、敵と味方が誰なのかを見失ってしまう経営者さえいるのです。
争う相手という意味ではなく、利益が相反するという意味で債権者は債務者の敵なのです。口先では債務者を思っているようなことを言いながら、土壇場で「本部の指示」「ファンドの指示」を理由に手のひらを反すような事例は何件も見てきました。悪意の有無は別として、金融機関にも論理があるのでやむを得ないことでもあります。
公的支援機関や金融機関が「中立的な立場からデューデリを行う」ことを理由に選任した「中立的」であるべき第三者はどうでしょうか。債権者の顔色を見るような第三者であれば中立ではなく敵というべきですが、そうではなく、あくまで中立であるならば敵ではないといえるでしょう。しかし中立であるということは、敵ではないものの味方でもないということでもあります。中立ではあるが、味方ではない第三者に過度の期待をしてはならないのです。情報の非対称性を解消してもらうという意味であれば、中立の第三者は有用ですが、全ての場合に有用だというものではありません。
「藁にも縋(すが)る」といいますが、味方ではない中立の第三者が時として「藁」だということに気付くべきだと思います。藁に縋ったところで、何の役にも立たないのです。
思うように進まない焦りや、不満、不安から、敵と味方を見失ってしまうようでは債務者主導の再生は期待できません。注意が必要です。
2021年03月30日(火) 着手金と成功報酬に潜む問題
着手金を介在させる場合の問題点としては、着手時点で経済的利益を得ているので、その後において手抜きをするという危険があるということです。仮に成功報酬を受け取れなくても、着手金を受取っているから満足だというわけです。
成功報酬を介在させる場合の問題点としては、何をもって成功とするかを慎重に見極めなければならないということを挙げることができます。たとえば、もう少し工夫したり、交渉することで1億円の債権放棄が期待できる場合に、味方であるはず専門家が、何かと理由をつけて1億円に満たない金額で合意することを勧めてくるようなケースが考えられます。
なぜ、低い金額で合意を勧めるかというと、低い金額で手堅く合意したとしても、「成功」として成功報酬が得られるからです。
他の例としては、高額の融資を受ける必要はない事例であるにもかかわらず、わざわざ融資を調達して融資獲得に成功したとして成功報酬を受け取る融資ブローカーのような業者も存在します。
必要のないこと、無駄なことを「成功」として報酬を支払うほど無意味なことはありません。何をもって成功とするのか、十分に見極めることが必要です。
着手金にしても、成功報酬にしても、必ずしもすべての場合に有効な報酬体系にはならないことに注意することが必要です。味方であるべき者が成功報酬に目が眩み、いつの間にか敵になっていないか、慎重に見極めなければなりません。
2021年03月22日(月) 債務者の主体性が必要
債権者との協調は極めて重要ですが、債務者が主導的に動くべき場面があることも否定できません。たとえば再生のスケジュールです。再生方針を策定した後は、債務者が独断的ではないまでも、積極的に行動しなければなりません。債権者の重い腰を上げさせるには債務者の積極的なアプローチが必要なのです。
事業譲渡にしても、会社分割にしても、さらには、特別清算にしても、債務者が主体的に進めないと、いつまでたっても話が進まないということもあるのです。
債権者が選任した外部のコンサルタントに任せきりにしたのでは、債務者主導の再生は期待できません。なぜならば、外部のコンサルタントは債務者ではなく、債権者の顔色を見るからです。あわよくば次回も別案件で債権者に選任されたいと思うのも無理はありません。いわば債権者寄りの外部業者に、いいように丸め込まれかねないので注意が必要です。
債権者との協調を進めるだけではなく、債務者は主体的に行動しなければならないのです。主体的といっても身勝手な詐害行為が許されるわけがありません。債権者との協調と、債務者の主体的行動を両立させなければならないのであり、微妙なバランスを取りながら成功を目指すことこそ、真の専門家が手掛ける戦略的事業再生なのです。
2021年03月15日(火) 債務者を育てて高く売る
債権者が自ら選任したコンサルタントを派遣してくることがあります。金融機関ではなく債権者と表現したのは、初めに融資を実行した金融機関だけではなく、債権譲渡で出現したサービサーや投資家のような新しい債権者も同じ債権者だからです。
いずれの債権者であっても、コンサルティングチームだとかプロジェクトチームだとか銘打って人員を送り込み、債務者の経営実態を根こそぎ洗い出して経営改善を進めるのです。債権者としても従来の経営者と共に経営にあたることで過去から現在に渡る経営ノウハウを吸収できますので、数年の間、手を取り合って経営改善することは効果的です。
その間、債権者は利息だけを受取り、元本は棚上げにします。「利払いだけで結構です」「一緒に経営改善をして立派な企業に育てましょう」と、あたかも救世主のような言動により、旧経営者の尻を叩いて経営にあたらせます。これにより企業価値を高めるというわけです。従来の返済能力が100であったところ、120になり150になれば、それはそれで結構な話です。
問題はその後です。
数年後、債権者は一括回収へと態度を変えてくるのです。「既に数年が経過した。債権を処分するので、金融機関から融資を受けて一括返済してくれ」と言ってきます。数年の間に培った信用を基に、金融機関を確保できれば、そこで肩代わり融資を受けて、一括返済してくれと言い出すのです。融資が確保できなければ、どこかから見つけてきた同業者に経営権を譲渡するように迫ってきます。
「一緒に頑張ってきた〇さんに自立してもらいたいので融資を受けて返済してくれれば残額は放棄する。融資が確保できなければ他社に会社を譲渡してくれ」と、飴と鞭で迫ってきます。何のことはない、債務者は数年間、債権者が有利な条件で一括回収できるように協力させられただけなのです。返済能力が100のままでは高く処分できなかったものを、120や150に能力を高めることで、より多くの回収ができるように力を貸しただけの話なのです。換言すれば、数年前であれば100の返済能力に対応する一括返済をすれば良かったものを、数年後になって120、150という高い一括返済額を要求されるというわけです。
2021年03月09日(火) 事なかれ主義
公的支援制度において専門家が選任・紹介される場合、公平中立な立場から活動することが求められます。お役所仕事とは言わないまでも、後で問題が生じないように無難な対応しか行うことはできません。公平中立とは、「金融機関寄りでない」と同時に、「債務者寄りでもない」ことを意味しますので、債務者に有利な形での誘導はできないのです。
たとえば、従来の経営者が経営権を確保するために形式上の第三者を立て、第二会社に資産や事業を譲渡するというような、「究極の第二会社方式」に協力を期待することはできません。まして、できるだけ安価(適正価格)で身内に移転することなどは望むべくもありません。この場合の安価とは、たとえば債権者との交渉で一部の資産や事業を高く売却することと引き換えに、残った部分を身内に残すような場合の価格のことです。公平中立である以上、債務者が条件交渉を期待する方が無理というものです。
このような債務者側の立場に立って行動することを、公的支援機関により紹介された公正中立な専門家には期待できません。公正中立である以上、大きなトラブルが生じないよう、特に債権者からクレームが寄せられないような事なかれ主義のコンサルティングしかできないのです。金融機関により紹介された専門家についても事情は同じです。
露骨に債権者寄りにならないまでも、積極的に債務者側に立つことは無理というものです。仕事を紹介してくれた金融機関に不利になるような対応ができるはずがありません。
2021年03月02日(火) マンション管理と内部統制
このたび、「マンション管理における不正を防止するための内部統制とマンション管理の態様ーリゾートマンションを念頭に置いて-」と題する研究論文を発表しました。
その内容を一足先にホームページ上で公開します。
2021年02月28日(日) 建物が存在する場合における財産評価基本通達による評価(1/2)
平成26年4月より株式会社ミロク情報サービスの客員研究員を拝命しています。
毎月一回の研究会に参加するだけではなく、毎月一回の経営研究レポートを発表しており、ミロク情報サービスのホームページで紹介されています。
第71回の経営研究レポートが公開されました。
今回のテーマは「建物が存在する場合における財産評価基本通達による評価(1/2)」で、その要旨は次の通りです。
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要旨:
土地所有者の死亡により配偶者や親族等が土地を相続する場合に、相続税における評価の減少に的を絞って整理します。今回は土地の上に建物を建築する場合を想定し、その建物を誰がどのように利用するかによって、どのような違いが生じるかを明らかにします。第一回は評価方法の原則を整理し、第二回では小規模宅地等の特例を整理します。
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(1)会計事務所の先生の場合は「tvs会員」になる必要があります。
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http://tvs.mjs.co.jp/working/management/research-rep/not_cached.html
(2)企業の経営者の場合は「GOODWILL PLUS会員」になる必要があります。
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多くの有益な情報を入手できますので、入会することをお勧めします。
私自身、他の研究員の研究レポートを拝読し、参考にさせていただいております。
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2021年02月21日(日) 味方になってくれないコンサルタント
金融機関がコンサルタントを紹介することがあります。「事業デューデリや財務デューデリをする」「再生計画を策定する」等々の理由で、コンサルタントを送り込んでくるのです。公的支援機関が専門家を選任したり紹介したりすることもあります。
一つの例を紹介します。
サービス業を営むその会社は、資金繰りに窮していました。メインバンクから、「コンサルタントを紹介するのでデューデリと再生計画を作成すべし」との話が寄せられました。コンサルタントからは、仕掛かり事案の成約可能性等、経営実態について根掘り葉掘り調査された後、コンサルタントが主導する形で10年にわたる再生計画を策定したのです。
内容に合点がいかない経営者が筆者の元を訪ねてきました。
再生計画書を見ると、その計画はお話にならないようなものでした。実際には困難と思われるような収益計画を継続し、返済原資を実力以上に高く見積もり、7年程度で現在の負債を全額返済するというような内容だったのです。
実体としては受注は低迷し、資金繰りのために短期借入を繰り返すのが関の山で、7年で全額返済どころか、おそらくは利払いが精一杯(利払いを継続するとしてもの話)なのです。
それにもかかわらず、粉飾された再生計画を提出するのは、金融機関の立場から不良債権のランクを下げたくないからなのでしょうか。まさに古典的な不良債権隠しです。
それだけではありません。何年も前に、相続対策で配偶者名義に変更した自宅を、追加担保で金融機関に提供すべしとの、金融機関寄りのアドバイスをしてきたのです。追加担保に出すということは、金融機関に資産をプレゼントするようなものです。担保に出したら最後、万が一の際には競売されますし、第二会社を利用して事業再生を行うにしても、担保抹消に資金が必要になるからです。
このような悪質な圧力をかけてまで金融機関寄りのコンサルティングを行う業者が少なくないので困ったものです。ここまで露骨でないにしても、公平中立の大義名分のもと、債権者に不利になる(=債務者に有利になる)ような計画を避ける例は数知れません。むしろ、その方が多いといえます。債務者の再生よりも、金融機関の顔色を窺いながら、次の仕事をもらえるように立ち回っているのでしょうか。
2021年02月11日(木) 敵と味方
長い間、事業再生のコンサルティングをして、気づいたことがあります。それは、事業再生にあたって出現する者は「全員が敵とはいわないまでも、全員が味方ではない」ということです。
「あわよくば経営権を手に入れよう」「あわよくば商圏を確保しよう」「あわよくば手数料を稼ごう」等々、狙いは千差万別ですが、全員が経済的利益を求めて群がってきます。そこまではやむを得ません。正当な報酬を求めることに対して「敵である」とまではいえないでしょう。
多くの経営者は、「うちの場合は協力者がいるから大丈夫だろう」と言います。
残念ながら、この判断が間違っている場合が大半なのです。なぜならば「協力者」は事業再生を進める時点での協力者であり、事業再生が成功した時点では協力者ではなくなることが少なくないからです。
「一族の再生を第一義に考えているかどうか」の視点で考えれば、金融機関もスポンサーも「敵」になり得るのです。事業再生にあたり活動するのですから、適正な報酬を求められることは然るべきですが、「一族の再生を考えてくれているか」を考え、敵かどうかを見極めることをお勧めします。現在は味方であっても、将来において協力者ではなくなる者は「本当の味方ではない」ということに注意しなければなりません。
2021年01月30日(土) 味方を確保するのも経営者次第
経営権は第三者にすることが第二会社方式における金融機関の条件になる場合、信頼できる第三者に経営者や株主の役割を演じる「形式上の経営者」になってもらう必要があります。一時的に味方になってくれたとしても、将来において裏切られたのでは経営を奪われてしまうということになりかねませんので、信頼できる第三者でなければなりません。
信頼できるということは従来の経営者の立場から見ただけの話ではありません。第三者を演じる立場からしても同様です。
従来の経営者を信頼できるからこそ「第三者の役」を引き受けるのです。取締役を引き受けるということは、会社法429条の損害賠償責任等のリスクを伴います。リスクを認識したうえで引き受けるということは、従来の経営者との間に信頼関係があるからに他ならないのです。
第三者が必要であるにもかかわらず信頼関係が築けないならば、第二会社方式による事業再生は困難になってしまいます。経営者一族を守るために協力してくれる第三者をいかにして確保するのかということは、第三者が信頼できるかどうかという話ではなく、まさに経営者自身が信頼に値する経営者なのかという話でもあるのです。
2021年01月24日(日) どのように交渉すれば良いのか
債務者の再生支援をせず単に回収だけをするのであれば、債権者にしてみれば再生支援の専門家は邪魔で仕方がないということになります。債権者が回収するにあたって、債権者にとって不利な入れ知恵をされては迷惑だからです。
債権者が債務者の再生支援をしない場合には次の三通りが考えられます。
ⅰ.弁護士以外の「有能な」専門家は解任を求められる
ⅱ.弁護士以外の「無能な」専門家は解任を求められない
ⅲ.弁護士は「有能でも、無能でも」解任を求められない
債権者が債務者を支援する専門家の解任を求めてきたら、「回収に舵を切った」と警戒することが必要かもしれません。このような場合には「債権者の好きなようにされてしまう」危険を回避するために、表面上は解任したことにして、黒子に徹した「入れ知恵」を行うといった対策が必要になります。
本人の強い意思を前面に出し、第三者の入れ知恵ではなく本人の意思で再生するのだという姿勢を示すことが大切です。
2021年01月21日(木) 金融機関との交渉を弁護士以外に依頼する場合
弁護士以外の専門家の場合、弁護士法の規定により、本人の代理人にはなれないので支援者という立場になります。債権者にしてみれば、「手強い支援者は解任することを交渉の条件にしよう」と考えるのも無理はありません。
実際にあった例ですが、コンサルティングを始めて半年程度で契約終了となり、その後、久しぶりに相談が寄せられたことがありました。面談して話を聞くと、「金融機関から強く迫られ、主要資産は売却をさせられた。今は本業に直接必要な資産だけが残っている。投資ファンドに債権が譲渡された。これからどうすれば良いのか不安で相談した」というものでした。
調べてみると、めぼしい資産は売却させられ、挙句の果てには抵当権を設定していなかった先祖伝来の不動産も追加担保に取られていました。債権者のやりたい放題で、債務者の立場への配慮は全くされていないような状況に追い込まれていたのでした。
メインバンクとして債務者の再生を支援するどころか、できるだけ回収をして、残った債権を債権譲渡するという露骨な行動でした。「できるだけの回収はした。最後に残った本業の資産は取り上げることはせず債権を譲渡した」という言い分なのでしょう。債権者の強い要求でコンサルティングの中止を求められたのでした。債権者が有利な形で回収を進めるのに、債務者を守ろうとする再生の専門家がいたのでは都合が悪いので、コンサルティング契約の解約を要求していたのです。
このように、弁護士以外の専門家の場合は本人の代理人ではないので、解任を求められかねないという特徴がありますので要注意です。
2021年01月15日(金) 金融機関との交渉を弁護士に依頼する場合
弁護士は本人の代理人となるため、前面に出て交渉にあたります。弁護士が交渉主体になるので経営者の意思が表面化しないことになります。金融機関としては手強い弁護士だと思っても解任できないのです。一方、弁護士に恵まれなかった場合には、債務者が期待する成果が得られないことになります。
経営者自身は弁護士の後ろに隠れてしまいますので、金融機関としては「経営者がそこまで真剣に決意を示し、誠意を見せるなら協力してあげよう」というような話の展開にならないのです。
弁護士を前面に出して自分は陰に隠れ、法的権利を振りかざしながら返済猶予や債権放棄を求めてくる債務者に、協力してあげる気になるはずがありません。ましてや、身内に経営権を残すための究極の第二会社方式を容認する等、積極的な協力が期待できるわけがありません。
経営者自身が真摯な態度で臨むからこそ、債務者主導の再生が可能になることを見失ってはなりません。
2021年01月06日(水) 第三者を前面に出し過ぎてはならない
事業再生は経営者自身の意思で進めることが重要です。
もちろん、中には迷いを感じながら事業再生に臨むケースもあります。このような場合には、十分に計画の内容を理解し納得することが重要になります。
中途半端な姿勢で事業再生に臨むと、債権者にすれば「誰かに入れ知恵されて計画を策定したのではないか」という疑念を感じてしまうこともあります。そうなると、利害が対立する債権者としては、「経営者本人の意思ではなく、第三者の入れ知恵ならば、経営者を説得して翻意させよう」ということになってしまいます。
債権者として債務者の再生に協力するどころか、債務者の翻意を促すということになってしまうのです。これではスムーズに進むわけがありません。最悪の場合、矛先が支援専門家に向けられてしまいます。「債権者に不利な(=債務者に有利な)入れ知恵をするような支援専門家や会計事務所には介入してもらいたくない」ということになりかねません。このような間違いを避けるため、事業再生は経営者自身の意思で進めることが重要なのです。